#181

歩き旅の話


独り言 自分


学校を出た。
これから、はじめて、あるいて、帰る。
疲れるだろうな。
でも自由性はあるから。
隠しポケットからイヤホンを取り出す。
耳にラジオの向こうの人の声が飛び込んでくる。
足下は溶けかけた雪。
ぬかるんで時たま、転びそうになる。
そして寒い。
今は何時頃だろうか。
時計を見る。5時6分。
約束の時間はとっくに過ぎている。
ああ、今日も少ない数字が刻まれる。

両手をポケットに突っ込んで歩く。
肩から鞄を提げて歩く。
端から見ればカッコつけているようにしか見えない。
だがこれは寒さを防ぐための処置の他にない。

目の前に見えたのは地下通路。
自転車では絶対に通ることの無かった洞窟。
足を踏み入れてみた。
階段を踏むたびに、かん、かん、かんと、
聞こえ心地のいい音が繰り返される。

地下を抜けて、再び空を目のあたりにする。
そして十字路の信号。
赤になりそうだった。ここだけはと走って、
直角に向きを変えてもう一つの信号を渡る。

電線が切れていた。その横を通り抜け、
坂を上り、降り、トンネル抜けて、また上り、
そこは橋の上だった。
すぐ脇には柵。そしてすぐ下は川。
茶色い水が流れている。

――ここを乗り越えれば死ねるよ。
今日の体育の鉄棒の要領で。

脳裏にそういう意識が横切った。
自殺なんて考えてもいない。まして考えたくもない。
今の僕は、活きてないけど生きているんだ。
生きていればそのうち輝く時間があるはずなんだ。
・・・今はどす黒い時間だけど。

橋を降りた。それでも左手には川が見える。
リバーサイドウエイ、というやつか。
川には幾十の鴨が泳いでいる。

2回曲がって、長い道に出た。
自動販売機が目に止まった。
“あったか~い”飲み物でも、買おうか。
寒い財布を開けて、120円を取り出す。
お茶を買った。
手に取ってみる。
まるで、並べられた細かいビーズをなでているような感触。
ああ、癒される・・。

ラジオからは相変わらず音楽や言葉が溢れている。
長い道も最後まで来た。
ようやくお茶を開けて、飲んでみる。
思ったよりも苦い。
さっき通り過ぎた別の自動販売機にすれば良かった・・。
狙いは、紅茶だったから。甘いのね。

手は既に感覚がなくなっている。
空き缶を鞄に突っ込んで、またポケットに手を入れる。
それでも風は布を通り抜けて手に当たる。
それが確かなのかも定かではない。
それほど手は弱まっている。

赤信号。それは旅の休憩地点。
刹那の休憩タイムを通り過ぎ、最後の道に入った。
もう日はほとんど暮れている。
僅かに空が紅い。だがそれもいつの間にか黒になった。
向かい風が強くなる。
毎度のことだが、今日は耐えかねる。
靴のおかげで左足の足首の後ろが擦れている。とても痛い。
そんな弱り切った足は雪に阻まれ、
カラダ全体は向かい風に押されている。

川に飛び込まなくても死ぬんじゃないか?
もし死んだらどんな世界にたどり着くのだろう。
目を閉じた時よりも黒い世界、だろう。
もし死んだら僕のために涙を見せる人はいるのだろうか。
多分、いないと思う。
哀しいな。こんな人間の存在は。

家にたどり着いた。
なんだ、結構面白かったじゃん。
それは振り返って思ったこと。
実際は苦しくて、苦しかったはずだ。

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