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承認欲求の満たし方


熊代亨『認められたい』(2017年、単行本・ヴィレッジブックス)を読みました。

なぜ、私はこんなにも「誰かに認めてほしい」ことに餓えているのだろう。
これをなんとかする手立てはないものなのだろうか。
という悩みを持っている人は多いと思いますが、自分もまさにその一人です。

本書は「認められたい欲求」をざっくり「承認欲求」と「所属欲求」に分類したうえで、
これらの欲求には人によって程度の差があるという仮説のもと、
その程度が低いためにいつも満たされない人のための行動指針を提示した本です。
当然「認められていない」人向けであり、かつどちらかというと若者向けの本でもあります。

承認欲求とは、「他人を介して自分の自尊心を満たしたいと思う欲求」のこと。
Twitterでいいねがたくさん付くと嬉しい、スルーされると悲しいと思うあの感情のことです。
承認欲求は行動のエネルギー源にもなり得ます。
創作物を評価されればもっと良いものを作りたくなるし、褒められれば期待に応えたくなります。
現代の世の中を見渡すと、あらゆるコンテンツ産業はこの承認欲求を刺激するものばかりです。
特にYouTubeやソーシャルゲームなど、
インターネットコンテンツはこの20年で一気にその最前線に躍進しました。
インターネットを介して承認欲求を満たそうとする若者は跡を絶ちません。

しかし、「認められたい気持ち」は実は承認欲求だけではありません。
これは「ある好きな集団の一部に所属していたい」という、言葉通りの意味を指します。
所属欲求で特徴的なのは、集団が評価されていれば
自分自身の自尊心が評価されなくても関係ない、という点にあります。
ただしこれは多少なりその集団そのものに対して
自分が好きだったりリスペクトしていないと成り立ちません。

著者は、これら欲求にいつも餓えている人のことを「欲求レベルの低い人」と表現しています。
「レベルが低い」ということは「経験を積めば高くできる」ということです。

レベルが低い人は往々にして、承認欲求を満たすために十分以上の力を出そうとしてしまいがちで、
自分にできる限り最大限の力で、一気に欲求不満を満たそうとする傾向があります。
しかし、これら欲求は「食いだめ」しておくことはできません。
仮に全力を尽くして何かを頑張って、ネット上で多くの賞賛を得られたとしても、
それをすべて受け取る力量がなければ、食べられない分はその場に残すしかありません。
「残った分はまた明日」というわけにいかないのが、これら欲求の厄介なところです。

しかも、人の欲求は徐々に慣れていくという特性があります。
100いいねで満たされた気持ちを次も満たすには101いいね以上を叩き出す必要があり、
同じようなことで承認欲求を満たそうとしている限り、
それを満たすためのハードルも際限なく上がっていってしまいます。

では、これらを乗り越えて承認欲求を満たしやすくする
(=レベルを高くする)にはどうすれば良いのでしょうか?

まずひとつは、「認められたい」欲求は承認欲求だけではありません。所属欲求もあります。
承認欲求に餓えている状態は、好きな集団に所属することである程度解消が望めます。
ふたつめは、一度に最大まで満たされようとしないこと、
つまり「小さなことでも満たされることもある」という視点に注意することです。
承認欲求は主に自分のコミュニケーションか、あるいは長所の発現の見返りによって得るものです。
コミュニケーションについては後述の“みっつめ”に書きますが、
「長所」が認められるというのは、一朝一夕ではとても思い描くところまではいかないでしょう。
自己実現的なものに承認欲求を求めるには忍耐が必要であるということを心得るべきです。
少なくともそれを「今日の欲求不満」の矛先に向けるべきではありません。

みっつめは、そもそも自分がどの程度の承認欲求レベルを持っているのかを理解することです。
承認欲求に餓えているのは自分だけではありません。
自分を認めてくれる他人も、承認欲求に餓えているかもしれません。
そこでお互いに認め合うことができればこんなに良いことはないし、
人は他人にされたことはお返ししたくなる習性があります(返報性の法則)。
まず自分から認められれば、結果的に認められやすくなるということです。

しかし承認欲求レベルに大きな差がある場合、
レベルの低い人はいちどきに強烈な満足感を得ることを周囲の人間に求めていくいっぽう、
レベルの高い人は少しの満足で欲求不満を解消することができるので、
お互いが相手の欲求を満たしてあげるために必要な努力量がまるで違ってきます。
レベルの低い人は周囲に高い見返りを(多くは無自覚のうちに)求めてしまうので、
少しずつ人が離れていってしまいがちです。

承認欲求のレベルアップは一日にしてならず。
誰もが思春期以前はレベルが低い状態を経験しているし、
最初からレベルの高い人は存在しません。
若年層に「認められたい」欲望に悩むのはある種当たり前のことです。
承認欲求レベルの経験値とは、まさに社会の経験値だからです。
誰もが社会経験をすれば少しずつ効率は良くなっていくわけですが、その成長度合には差があります。
本書は、その成長速度が遅い人のために、少しでも助けになるよう書かれた処方箋のようなものです。

*  *  *

「結局は人間関係か」と言われれば、まあそうなのでしょう。
本書は社会から完全に孤立している引きこもり、あるいは精神病歴のある人を対象にはしていません。
あくまで既存の人間関係で「満たされない」ことに困っている人向け、といった趣です。
そのうえで、しかしもっとも大切な人との人間関係が承認欲求を満たすのではなく、
会社の同僚、クラスメイトの友人といったもう少し距離感のある人と、
感謝や謝罪、挨拶といったコミュニケーションによって少しずつ承認を集めることによって
「特別な存在になりたい!」などという承認欲求の暴走を防ごうというものです。

自分はこれを繁忙期明けの平日3日間でさらっと読んで、その勢いで感想を書いてみましたが、
自分の心にストライクだったのは3章までで、
実践編については元々コミュニケーション能力のある人向け、と言わざるを得ない部分もあります。
しかし、長年の疑問だった「承認欲求の正体」と、その暴走から逃れる方法について
ざっくりと説明してくれた本としてはなかなか理想通りだったのではないかと思っています。

Twitterでかまってちゃんしないと気が済まない人は是非とも読んでみてください。
ちょっと心がえぐれるかもしれませんが、それを含めて良い薬になりますよ。

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