#5518

シュールレアリスムの極致


文化

――日々私たちが過ごしている日常というのは、実は奇跡の連続なのかもしれん。
(『』 – 日常の第四話より)

Netflixで2011年春季アニメ『日常』を全話観ました。
2012年にレンタルで観たとき以来、7年ぶり二度目ですが感想を書くのは初になります。
もともと2011年~2012年当時にハマっていた漫画を原作としたアニメ作品で、
文字通りの「(非)日常系アニメ」です。ほとんどあらすじに意味はないですが、あらすじは以下。
なお、これ以下の文章では核心的なネタバレには触れていません。

*  *  *

8歳の天才少女「はかせ」によって作られた女子高生型ロボット、東雲なの(しののめ・なの)。
ある朝、朝ごはんのおかずに魚を庭で焼いていると、野良猫に取られてしまう。
追いかけていると、通行人とぶつかってしまい大爆発が起きて……。
一方、時定高校(ときさだめこうこう)に通う相生祐子(ゆっこ)は、
いつも通りの日常生活を楽しく登校していた。友だちの長野原みおを見つけて声を掛けると、
どこからともなく爆発音が、そして雨でも槍でもない、とんでもない非日常が降ってきて……?

*  *  *

一見すると何気ない日常を描いているけれど、そこにさりげなく在るのは強烈な非日常。
ゆるやかな女子高生の生活を描きつつもぶっ飛んだギャグ作品です。全26話構成。
誰でも笑える無難なネタでありながら、極めてシュールでいちいち予想を外してくる。
何十人という強い個性を放つ大勢のキャラクターがお互いにゆるくつながっていて、
それぞれが少しずつ我が道を進んでいくさまを演じてくれます。

率直に言って、自分はこの作品が大好きです。今までで観たアニメで一番かもしれない。
ギャグだけが好きとか、キャラクターだけが好きとかじゃなく、
特定のこの要素が好きとかじゃなく、なんというか『日常』という世界観が総体的に好きです。
このアニメの全体的な魅力は冒頭動画のオープニングアニメが見事に表現していて、
こんな感じの矢継ぎ早で愉快なハチャメチャ感が本編全体に行き渡っています。

全体的な構成としては、前半がギャグを前面に押し出した作品、
後半はキャラクターを前面に押し出した作品のように見えます。
前半のボケとツッコミはハッキリ言ってかなり強烈です。「ゆっころがし」は万人向けではないかも。
でも、後半になるとボケとツッコミの面白さは相変わらずですが、強烈さは少し抑えられていきます。
そしてそれと同時に、ギャグに隠れていたキャラクターの心の内側が少しずつ見えてきます。

例えば、ゆっこの友だちである水上麻衣(みなかみ・まい)は、
最初から最後まで発言回数の少ない寡黙なキャラクターです。
強烈なボケによってゆっこをどうしようもなく翻弄し、どこまでも他人の意見を聞き入れないので、
どことなく理不尽さを感じてしまうことがあります。
でも話数が進むと、あるキャラクターとの出会いによって初めて視聴者の前で心を開きます。

主人公のゆっこも、どこか憎めない天然おばかキャラとして走り出しますが、
後半になると、その笑顔の天才の裏側には誰よりも他人を思いやる心があることを思い知らされます。

誰かから誰かへの一方的な愛情、友情。そんなカタオモイ的な人間愛が、
このシュールを極めたギャグ作品の中に場違いのように散りばめられています。
ギャグ系統の作品でありながら、ほっこりするラブ的な一幕がある。そんな奇特な組み合わせ。
それこそが『日常』の魅力だと自分は思います。

あと、世界観に余計なテクノロジーが入っていないのも個人的には好印象です。
2011年はスマホ元年ですが、原作はもう少し古い(2006年)ためアニメでもスマホは出てきません。
携帯も3回しか出てきません。いずれも通話用途でもなんでもない。
メールしたり通話したり、ネットで調べたりといった情報社会的な要素が排除されているんですよね。
いわゆるイマドキの言葉、若者言葉もかなり排除されている印象。
そういう点で言えば、この作品はどこか懐かしい風景を描いた純粋な作品でもあります。
だからこそ、「いま」を忘れて没頭できる。

とまぁ、語っていくとキリがありませんが、とにかく作品構成のすべてが好きなんです。
意味不明な哲学的コーナー「ヒトコトワドコトバ」もいいエッセンスになっていると思います。
やたら豪華な声優陣で送る次回予告も好きです。意味不明だけど。
風景が流れているだけの意味不明な定点カメラも好きです。本編とのギャップを楽しむ休憩時間。

キャラクターもみんな魅力的で好きで、モブキャラすら魅力的。
ほどよくデフォルトされていてみんなひたすらかわいい。余計な色気は一切なし。
ちなみに自分は大胡さんというモブキャラの絶妙な存在感がけっこう好きです。

さすがは京アニ、純粋にアニメとしての完成度も高く、細かい描写や効果音も楽しめます。
ファンブック『日常大百科』によれば、BGMは「非日常感」を演出するために
なんとオーケストラの本場、ハンガリーまで飛んでいって収録したんだそうです。
これが最大限生かされているのが、セリフなし音楽のみの名エピソード「日常の69」。

アニメもただのアニメ調作画ではなく、原作に忠実な表情を目指して作られているのだそうで、
単なるアニメというよりは「漫画が動いている」という感じ。
とっても表情豊かで、これがまたキャラクターの魅力を引き出すことに成功しています。
この作品、1話分作るためにとんでもない数のセル画が作成されているのだとか……。

俗物的要素を一切排除した純粋な何かをシュールにイチから再構築したのが本作だと思います。
なおかつ、ここまで高密度に詰め込んでいながらギリギリ破綻していない奇跡的な完成度。
大変気に入ったので定価34,650円のBlu-Ray Boxを買ってしまい、
後期オープニングテーマのCDも買ってしまい、さらにファンブックまで買ってしまいました。

何かの作品にここまで猛烈に夢中になるのも本当に久々の経験で、なんというか救われました。
どっかの神様、ありがとうございます。
これを宝物にして、私は私の日常を過ごしていきたいと思います。

単純な、馬鹿でありたい。
(『日常』 – 日常の第一話より)

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