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他人との接し方


備忘録

アービンジャー・インスティチュート『自分の小さな「箱」から脱出する方法
(富永星 訳、大和書房、2006年)を読みました。

自己啓発書の中でも、とりわけ人間関係トラブルに焦点を当てた本になっていて、
特に仕事でリーダーシップを発揮する人に向けて書かれています。

人はしばしば、「箱」に入ってしまうことがあります。
そして「箱」に入ってしまうと、人間関係が上手く行かなくなってしまいます。
では、「箱」から脱出するためにはどうすればいいのでしょうか。
そもそも「箱」とは何なのでしょうか。

*  *  *

作中では、とある男性がコネチカット州にあるザグラムという会社に入社するところから始まります。
彼はザグラムの競合相手になる会社で管理職をしていましたが、
あるとき、8回の面接を経てザグラム社の上級管理職に就任することができました。
彼は優秀で、その能力を仕事で遺憾なく発揮し、成功していました。
入社してしばらく経ったある日、彼は専務副社長に召集を受けます。
なんでも、上級管理職を対象にした研修があるのだとか。
周りに聞いてもその正体はおぼろげで、人間関係の問題が解決されるらしいとのことで、
副社長の名前から「バドのミーティング」と呼ばれていました。

彼は、仕事が上手く行っていることを評価してもらえるものだと意気揚々と会場に向かいました。
そして、副社長と対面するなり、こう言われたのです。
「君には問題がある。当社で成功したいのなら、この問題を解決しなくてはならない」
その問題というのが、彼が「箱」に入っているという問題でした。

箱に入るというのは、一言で言えば自己欺瞞に囚われているということです。
ザグラム社では伝統的にこれを「箱に入る」と表現していました。
自己欺瞞とはなにか。それは文字通り、自分を欺くことです。
、人は他人が自分をどう思っているかを感じ取る能力を持っていますが、
自分が他人のために何をすべきかを知っているにもかかわらず、
それをしないことで自分への裏切りが発生します。そのとき、人は「箱」に入ります。

人は、自分を欺くことによって、他人をモノのように捉えるようになり、
自分を正当化し、他人を悪者として見なすようになります。
ある日のこと、ある男性は飛行機に乗り込み、席に座りました。
多量の荷物を抱えていたので、隣に空いていた席に荷物を置きました。
このとき、彼は座席の脇を通る人をどう思うでしょうか。
「この席に座ってほしくない」と、他人を脅威のように見ていることでしょう。

別のある日、男性がまた飛行機に乗ろうとすると、パートナーと別々の席になってしまいました。
困っていると、ある女性が声をかけてきて席を譲ってくれました。
この女性にとって他人というのは脅威としては見ていなかったでしょう。
この視点の違いが「箱」に入っているかそうでないかという違いです。
それは他人を単なるモノとして見なすか、
自分と同じようにニーズのある人間として見なすかという違いでもあります。

要するに、「箱」に入るというのは、
自分が他者のためにすべきだと感じていることに対して背くことによって発生するのです。
一度「箱」に入ると、人は正当化のために現実を歪ませて認識するようになります。
自分が正しかったと感じるためには、他者が間違っている必要があります。
つまり、そこには何かしらの「問題」が必要になります。
こうして「箱」に入った人というのは往々にして問題を引き起こすので、
他人をも「箱」に入れてしまう効果を持っています。

「箱」から出るにはどうすればよいのか。
それは簡単な話で、他人を一人の人間として接すること。
「箱」というのは多面的で、ある人に対しては「箱」に閉じこもっていても、
信頼できる別の人に対しては「箱」から出ているということは少なくありません。
その大きな違いは、相手を一人の人間として認めているかどうかです。
人は、「箱」から出ようと思ったときには「箱」から出ているものなのです。

*  *  *

以上がおおまかなあらすじと内容です。
超ざっくり言えば、この本が言いたいことは「他人を思いやりましょう」というただ一点です。
それが、268ページの長きに渡って延々とロールプレイされている。
なので、内容としてはとても分かりやすいし、ストーリー仕立ての文体も馴染みやすいです。
自己啓発書というとどうしても解説的になりやすいですが、
これはそういう点では一線を画する本であると言えます。

言っていることがシンプルだからこそ、それが大事なことであるというのは伝わってきます。
実際、人生というのは人間関係が連綿と続いているものであり、
いつまでも自己中心的な考え方をしていたら、そのうち誰も助けてくれなくなってしまいます。
そうなる前にするべきことは何か。
それは、他人一人一人を、人間として見つめ直すこと。
当たり前なのだけれど、振り返ってみれば意外なくらいそれができていない自分に気付かされます。

2018年のTwitterにおける人間関係のトラブルも、
この本に書かれている内容を頭に叩き込んでおけば起きなかったのではないかと思うと、
もっと早くに出会いたかった本でもあります。
当時の自分はコントロール不能な「他人」に振り回されている自分を被害者と見なしていましたが、
この本の考え方に当てはめればそれは自己欺瞞に過ぎません。
やはりあの件は反省すべき点が多くあったのだろうと改めて感じます。
こんな風に、人間関係トラブルに悩まされている人には打って付けの処方箋だと思います。

書いてあることはシンプルだけれども、納得するためには深く読み込まなくてはなりません。
これからも自分は人間関係トラブルを引き起こさないために、
つまりは「箱」に入らないようにするために、
この本を幾度となく読み返していきたいものです。

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